11/24/2007

不動産オンライン登記申請について発表担当者になりました

企業法務研究会の平成20年第1回の勉強会で、1年ぶりに発表を担当することになりました。
我々司法書士にとって、平成20年1月は大きな節目となる月間だと考えております。節目にならない人もいるでしょうが、たいていの人は節目になると思われます。

事情に詳しい読者の方は、どこかでご覧になったことがあるかもしれませんが、法務省が推し進める登記申請のオンライン化、又はオンライン登記申請システムの利用者増大のために、登録免許税減税というインセンティブを利用者に与えるための法整備が着々となされています。
また、現在非常に難しい不動産登記のオンライン申請の手順や、添付書類の提出についての事務手続き簡略化について、法務省令改正手続きがとられつつあります。

このことによって、登記制度を利用する国民(司法書士から見ればお客様)から、オンライン登記申請を行う司法書士に業務を依頼したいとのニーズが発生してくることが予想されます。
と言うのは、同じ仕事を同じ報酬で受任した場合、オンライン登記申請の出来る司法書士と、それができない司法書士では登録免許税(いわゆる印紙代といわれる部分)に最大5000円の差が出てしまうということになります。オンライン登記申請が出来る司法書士の方が安上がりということになります。

そのあり方の是非は別として、オンライン登記申請利用者増大のためのインセンティブとしては、非常に分かり易いと思います。

4 comments:

矢本好 said...

不動産登記法の大改正が行われたのが平成17年4月で、そこから不動産登記オンライン申請が始まりました。
商業登記のオンライン申請はそれより早く、平成16年ころだったと思いますが、東京法務局中野出張所から始まりました。
不動産登記と商業登記とでは、そのめざす内容が異なるというかそもそも全く別の制度ですので、オンラインによる登記申請の方法もずいぶん異なっています。
主な点を挙げますが、
1、添付書類の問題
2、権利書や登記済証を申請人に返却する必要があるか否か
この2点に顕著な相違が見られます。

1について
A,不動産登記ではオンライン申請開始当初から、添付書類はすべて電子署名付き電磁的記録によることとされており、登記申請情報と同時にオンラインで提出すべきものとされていました。
B,商業登記では、議事録、委任状その他添付書類は、電子署名付き電磁的記録でオンラインにより提出する方法でも、書類を法務局に持参・郵送する方法でも構わないとされました。

2について
A,不動産登記においては従来の権利書に代えて登記識別情報通知が発行されることになりました。またそれと同時に従来の登記済証に類似した登記完了証が発行されるようになりました。
B,商業登記では従来同様、登記完了後は申請人に特に返却すべき法務局発行の書類はありません。


それでは、1A、2Aを実現するにはどうすればよいのか考えてみます。
司法書士という代理人を選任して、よくある抵当権抹消について考えます。
申請する当事者は銀行(又は保証会社)と不動産の所有者です。
必要書類は、登記済証、弁済・解除証書、銀行(又は保証会社)の委任状、所有者の委任状・銀行(又は保証会社)の代表者事項証明書です。
これのうち、登記済証はオンライン申請をするために提出できないとし、弁済・解除証書、銀行(又は保証会社)の委任状、所有者の委任状の3枚の書類を電子署名付きPDFファイルで作成し、オンラインで登記申請情報を送信するときに同時に送信します。
代表者事項証明書は代表者事項証明書はの委任状に電子署名が付されていますので、不要です。

机の上で考えてみますとそんなに難しいことではありません。しかし、銀行(又は保証会社)という組織が、電子署名付きのPDFファイルで抵当権抹消に必要な弁済・解除証書や委任状を発行するなどということが、そう簡単に行われるものではないのです。また、不動産の所有者が提出する委任状も、PDFファイルで作成の上電子署名をしなければなりません。こちらも公的個人認証サービスを利用すれば、安い費用で個人の電子証明書を取得することが可能ですが、パソコンにICカードリーダを増設したり、電子署名を付するためのアプリケーションをインストールするという手順が必要です。

実際に制度が稼働し始めたところ、1のA、2のAがネックとなって不動産登記のオンライン申請は、利用されていません。

皆様も周辺を見回していただければ、おわかりかと思いますが、いわゆる電磁的記録による契約書や合意書のようなものは、現実の社会にはほとんど出回っていないのではないでしょうか。これは厳密には電子署名を付したPDFファイルであったりXMLファイルであったりしますが、大会社のホームページ上に電子公告された場合の各PDFファイルぐらいしか実物を見る機会がないのではないかと思います。

矢本好 said...

コメント1に続きますが2Aの手順を実現するのもかなり難度の高い技術が要求されます。
コメント1の事例にあげた抵当権の抹消登記では法務局からオンラインで登記完了証をダウンロードすれば終わりですが、所有権移転登記の様に登記識別情報(権利書)の発生する登記の場合は登記識別情報(権利書)を入手しなければなりません。
「登記識別情報(権利書)は本人確認のための一手段であるから、必ずしも登記申請時に発行を受けなくてもよい」と強弁することも
可能ですが依頼者の支持は受けられません。
見たことがある方もいらっしゃると思いますが、登記識別情報とは法務局から提供されるアルファベットとアラビア数字の組み合わせ
による12ケタのパスワードでして、次に登記をする時にそのパスワードを提供することにより登記することが可能になるというもの
です。
オンラインによる不動産登記申請の場合は、この登記識別情報の提供も受け取りも、共にオンライン上で行うこととされております。

インターネットを経由して機密情報を送信する場合、なりすまし防止と情報漏えいの防止に対する備えが必要になりますが、なりすま
し防止に関しては申請人・法務局とでPKI基盤を利用することにより実現可能です。
登記識別情報の授受に関しては、われわれが最初の頃にPKI基盤の手ほどきを受けた時には、秘密鍵・公開鍵を利用するだけで文書を暗号化して送受信ができると教わりましたが、法務省の不動産登記オンライン申請ではさらにもうひとひねり加えられています。

所有権移転登記を行う場合を例にとって解説します。
まず、申請人情報を作成します。
義務者については、登記識別情報提供様式作成のためのデータを入力し、電子署名を付して登記識別情報提供様式を出力します。
権利者については、申請者情報を入力後、登記識別情報(法務局から暗号化されて通知される)暗号化(複合化?)のための鍵を作成
します。
権利者についてはさらに、電子署名を付して登記識別情報通知用特定ファイル届出様式を出力し、さらに取得者特定ファイルを作成し
てパソコン上に保管します。

不動産登記は、権利者義務者という立場の違う人間が相互に関与しあって手続きを行います。権利者のなすべき行為と義務者のなすべ
き行為とは立場が違うため異なります。それを忠実にオンライン登記申請手順に反映すると、権利者と義務者のとるべき手順が、上記
の様に非対称となります。

特に権利者側の入力操作において、複雑な手順が求められます。

権利者情報を入力し、暗号(復号)用の鍵を作成し、登記識別情報通知用特定ファイル届出様式を作成、取得者特定ファイル作成と、
似たような名前が出てきて、しかもそれら作業が通常のパソコン操作では経験することのない特殊な作業で、1個1個の作業をマニュ
アルと首っ引きで行わないと、不安です。しかも操作の途中で表示される注意書きがさらに不安をあおります。誰がどう考えても、あ
だやおろそかに出来ない重要度の高い作業が求められていることがわかります。
登記申請書作成支援ソフトを立ち上げて、登記識別情報関係様式作成へとすすみ、それぞれの様式を作成する途中で画面に表示される
注意書きには、「権利者の申請人情報、暗号(復号)用鍵の作成場所を間違えると登記識別情報が復号できない」とか、「取得者特定
ファイルを紛失すると登記識別情報がダウンロードできない」とか、一つの操作の失敗が取り返しのつかない結果を招くことを、我々
に予想させるので、気分も湿りがちになります。

登記識別情報というのは手っ取り早く云えば権利書です。
前の段落に、申請書作成支援ソフトにあれこれ表示される注意書きに書かれた失敗というのは、我々の仕事の質として信用問題にも発
展しかねない重要な問題です。たとえば、登記識別情報の復号に失敗する、またそのダウンロードが出来ない、ということは、依頼主
に渡すべき権利書を紛失した、とか法務局に置きっぱなしにしています、というに等しい事象です。

出来ればそのような事件は経験しないで一生を終わらせたい、と司法書士なら誰もが考えるでしょう。
自分のしている行為が、全体像の中でどの部分に該当する仕事であるのかが見渡せず、かなり消耗する作業です。

矢本好 said...

さて、コメント2では登記識別情報をダウンロードするためにかなりやっかいな手続きを踏まなければならないことをご説明しました。一応お断りしておきますが、私はパソコン嫌いではありません。またパソコンに対する技術力は、初心者ではなく上級者でもなく、ちょうど中間くらいのスキルはもっているつもりです。

以前、EASY CERTという鍵生成ソフトを使って、秘密鍵公開鍵の実験をしたことがありますが、暗号化のための鍵生成などということをやったのはそれ以来でして、こんなものを普通のユーザーがやるんだろうか?という感想を持ちました。

私が感想を抱いた通り、不動産登記オンライン申請は利用者数が伸びず、このままいくとパスポートのオンライン申請同様の運命をたどることになると思われました。

法務省でどのような話し合いがなされたのかは知りませんが、平成18年6月2日付で法務省民ニ第1322号通達というのが発出されまして、横浜地方法務局横須賀支局及び平塚出張所においていわゆる不動産オンライン申請特区として、特例が認められることになりました。

銀行も保証会社も、さらには個人もPKI基盤などどこ吹く風で、電子委任状も電磁的記録による登記原因証明情報も、誰も出してくれないものですから、添付書類の提出を紙で認めることにしたわけです。これなど、最初から紙による添付書類の提出を認めておれば、利用者もそれなりに増加していたと思いますが、新制度の導入当初にあまりにも高いハードルを設定したため、利用者が引いてしまったのでしょう。

同通達によりますと「すべての添付情報が電磁的記録によって作成されるものとは限られないため、送信の方法によらなければ、添付情報を提出することができないとすることは、電子申請の促進を阻害する要因の一つであると指摘されているところであり、また、添付情報の提出についても補正によって追加することは可能であることを考慮すると、電子申請の促進のための諸施策についての実証的な試行においては、登記識別情報を除き、添付情報が書面で作成されている場合において、当該書面に記載された情報電磁的記録に記録したうえで申請情報と合わせて送信するとともに、登記官が定めた相当の期間内に、当該書面を提出したときは、却下自由に該当しないものと取り扱って差し支えない」とされています。
現に、商業登記では類似の取り扱いがなされており、原本お届けさえすれば「当該書面に記載された情報電磁的記録に記録したうえ申請情報と合わせて送信」する必要もなく扱われています。

これで、不動産登記のオンライン申請がかなり近いものになってきました。少なくとも電子委任状のようなものが出回っていない現状から考えて、現実をしっかりと見据えた妥当性のある解決策と思います。

このシステムが来年1月中旬から実施される予定です。私なども、権利者側登記識別情報の受領が必要ない抵当権抹消や住所変更登記などに積極的に利用していくつもりです。


今司法書士仲間の間では登記原因証明情報スキャナで取り込みPDFファイルにするということが困難であるとか手間がかかるという理屈から非難めいた論調がありますが、その程度のことは今時どんな企業でもやってることですから特に目くじらを立てるようなことでもないのではないかと思われます。
ここまでで、不動産登記オンライン申請の最大の難関がとり払われたと言えます。
次回は、権利者の登記識別情報受領の問題点について記します。

矢本好 said...

不動産登記オンライン申請を阻む第2の理由  権利者の登記識別情報受領の問題点

不動産登記で権利証とか登記済証という言葉がでてきますが、これはどういうものであるかと言いますと、ある人が土地を買ったり、又は銀行からお金を借りて土地建物を抵当に入れるというような法律行為をした場合、前者であれば土地の売買の登記をした登記申請書の副本に法務局の登記済というハンコを捺印したものであり、後者の場合なら、土地の所有者が銀行に差し入れた抵当権設定契約証書に、法務局のハンコを捺印したものを、権利書ないし登記済証と呼んでいます。

社会通念上、これらの書類は大切な書類として扱われ、耐火金庫の中や銀行の貸し金庫、古典的な場合では仏壇の引き出しなどにしまわれているものです。

しかし、最初に書いたこれら書類の生い立ちから言って、これらの書類は不動産に対する権利の内容を表現したものでも何でもなく、ましてや不動産に関する権利が証券化された有価証券と言うわけでもありません。

権利書の価値というものを金銭で見積もってみるとどの程度のものなのか、まぁ権利書を紛失した場合の煩わしい手続きによるロスを考えなければ、単に用紙代程度の金額にしかならないと思います。

例えば1億円の土地の権利証を郵便で送っている間に紛失したことを考えますと、いくら保証してもらえるのでしょうか。かつてそういう事例があったかどうかを確認すれば良いのですが何万円も保証してもらえたということはないはずです。

権利書というものの経済的価値は、紙代程度しかないということになりますが、昔から、権利書は後生大事にしまっておきなさいと言われてきました。それこそ耐火金庫に貸し金庫、仏壇の引き出しというようなところに大切にしまっておくように言われてきました。このように扱われてきましたので、権利証をもっている人はその不動産の持ち主である確率が非常に高いという事実があります。権利書又は登記済証というのは不動産に対する権利を証明する有価証券ではなく、それを所持している人が権利書に表示された登記の名義人であることを証明するための資料なのです。

登記識別情報も、権利書や登記済証と同じく、登記識別情報を知っている人は本人であると推定するための手段であります。

不動産登記の共同申請の場合、登記をすることによって損をする人が権利書や登記済証を提出するという鉄則があります。そしてその登記をすることによって得をする人が登記完了時にその人名義の権利書や登記済証を法務局から発行してもらうことになっています。

オンラインによる不動産登記申請の場合は、すべてを電磁的記録の送信によって行いますので登記識別情報の存在が不可避の条件です。従来百何十年にわたって守られて来た権利書や登記済証の提出という制度を、登記識別情報の提出と受け取りという制度に取り替え、かつそれをオンライン申請に取り入れることが、不動産のオンライン登記申請利用を阻害する第2番目の要因になっています。