ご存知の方も多いと思いますが、会社を設立するには定款という法律文書を作成しなくてはなりません。そして、この法律文書には印紙税として収入印紙を4万円貼付しなければいけないことになっています。ほんの一昔前までは、この定款という書類は紙で作成し発起人全員が実印で捺印をしていました。現在では、紙で作成した定款の他に、紙を使わないで作成した定款というものが存在します。これは電子定款といわれるもので、紙にプリントする前のパソコンのデータをPDFファイルに変換して作成者が電子署名した法律文書です。簡単に言えば、印刷する前の状態でも法律文書として認めるということです。これを使うと、貼付収入印紙の4万円が不要になります。その理由から、私の作る定款は全部電子定款です。
電子定款には、発起人または定款作成代理人が電子署名をつけなければなりません。
これに関連して、厄介な事例が発生しました。私の持っている電子証明書の期限が今年の8月31日までのものだったとします。そして、会社の設立予定日が今年9月1日の案件でした。9月1日に設立登記をオンライン申請し、安心しておりましたところ法務局からの電話が・・。「9月1日に申請の設立登記についてですが・・」「電子定款のあなたの電子証明書の期限が切れているんですが・・」・・・・・・・・・・
電子定款は、PDFファイルに私の電子署名したものに、さらに公証人が電子署名を付した構造になっています。電子署名が二重にかけられている文書です。登記申請を行った場合、この2つの電子証明書のうち、どちらが有効である必要があるのでしょう。考え方として、1、両方有効であること2、後ろの公証人の電子署名が有効であれば足りるとの二つの考えがあると思います。
会社の設立登記申請をオンラインで行う場合は、電子定款を申請データの添付ファイルにして法務局に送信して提供するのですが、電子定款は電子データですから、いくらでもコピーが可能です。法務局に電子定款を送信するというのは、正確には公証役場から返還された電子定款の正本のコピーを送信するということですので、理論的には紙ベースの定款を準備する必要はなくなっています。
上記1・2のどちらの考えを採るかの考察は別にして、現場サイドでこの問題を解決するにはどうするか。もし、1の考えであるとすると、電子定款を変更することはできないので、9月1日の登記申請は却下されることになる。2であれば、特に問題はない。
しかし、2であれば法務局から電話がかかってくるわけもないので1で対応せざるを得ないワケで、困りました。
頭にひらめいたのは、同一の情報の証明を持っているということでした。紙で定款を作成した場合を考えると、定款の正本は公証役場から返却された電子データです。それをプリントアウトして公証人が印鑑を押したものが謄本です。これを同一の情報の提供と言います。設立登記申請の場合は、電子データの定款を提出する方法と、同一の情報を提出する方法があります。これを一部作っていただいていたので、急遽電子定款に足して、同一の情報を提出することによって急場を凌ぐことができました。
公証人役場で電子定款の認証を受ける場合、電磁的記録の保存と同一の情報の提供を依頼しないと、電子定款のファイルが1個交付されるだけなのですが、若干の手数料を上乗せすることによって、同一の情報の提供を受けることができます。今回はこれのおかげで、さらに深い悩みに足を突っ込まずにすみました。